新型コロナウイルス感染が広がる中で迎えた2年目の夏―。飯田下伊那地域で盛んな祭りや民俗芸能が今年も中止や縮小を余儀なくされている。担い手たちは「やらないことが普通になってしまう」と危機感を募らせ、どう継承していくのか手探りを続けている。
■阿南「新野の盆踊り」2年連続中止 「気持ちが離れてしまわないか」
阿南町新野で室町時代から続く国重要無形民俗文化財「新野の盆踊り」。例年なら14日夜から17日朝まで、盆唄に合わせて扇子を片手に優美に踊り明かすが2年連続で中止になった。新野高原盆踊りの会会長の山下昭文さん(74)は「いつもなら盆唄が耳に残っている」はずの17日夕、「お盆という感じがしない」と寂しそうに話した。
7月19日の世話人会では、日程を8月14、15、17日に縮小し、参加は地区住民に限って行うと決めた。マスク着用や検温などの徹底も確認。山下さんは7月20日の取材に「規模の大小にかかわらず、やることが継承には大事」と話していた。
だが、その後に感染が急拡大した。7月末に南信州広域圏の県独自の感染警戒レベルが3(感染拡大に警戒が必要な状態)に引き上げられると、今月10日、中止を決めた。
17日午前4時半ごろ、瑞光院の参道下へ新盆の切子灯籠を送る神事のみ実施。昨年は家の外に出て見物する住民もいたが今年はほとんどいなかった。「気持ちが離れてしまわないか…」。山下さんは不安を口にした。
例年、最終日の17日は県内外から200~300人ほどが集まり、誰でも踊りに参加できる。山下さんは「ワクチン接種が進んで来年実施できても不特定多数が踊る本来の形に戻せないかもしれない」と話す。
元市美術博物館専門研究員の桜井弘人さん(62)は「少子高齢化が進んでも『毎年やるべきもの』として続けてきた気持ちが薄れてしまわないか心配。子どもたちへの伝承教育の機会も減ってしまっている」としている。
■「大鹿歌舞伎」は無観客 オンライン中継を計画
一方、オンラインを活用し、活路を見いだそうとする動きも。大鹿村に江戸時代から伝わる地芝居「大鹿歌舞伎」(国重要無形民俗文化財)は毎年、春と秋に定期公演があるが、昨年は新型コロナでいずれも中止に。今春は4月に収録し、動画投稿サイト「ユーチューブ」と村ケーブルテレビで、公演予定日だった5月3日から7日間、配信した。今秋も10月17日に初めて中継する予定だ。
昨年の中止で、保存会には「先が見えない中で手をこまねいていては伝承に影響する」との危機感があった。どんな形式でもいいから実施しようと、無観客で映像配信を決めた。ユーチューブの視聴回数は約700回。保存会は、例年の会場への来場者数と同程度だったとみる。
ただ、大鹿歌舞伎の「売り」は会場に詰め掛けた観衆から飛ぶ声援やおひねりだ。保存会事務局の北村尚幸さん(60)は「その空気感が魅力。春の収録時は『しーん』としていて寂しかった」。
桜井さんは「祭りや民俗芸能があることで、世代や地域を越えた人々が一丸となったり、地域に対してアイデンティティーを持ったりできる。継承のために地域を挙げて新たな取り組みを模索することが大切」としている。